北京雑感―36

北京の市場―1

 

 2000年に初めて北京で生活した時、人々は、毎日の食材を近くの市場で買っていました。その市場は、日本なら棟割長屋形式で、15店舗も入ればいっぱいになるようなスペースに、壁を背にした台と、中央に楕円に配した台を置き、幅1m程のスペースを1軒分として商品を並べていて、店の数にすれば60店舗にもなるでしょうか。

壁を背にした部分には、肉屋や乾物屋、マントウ(中身の無い饅頭)包子(日本で言う肉饅・餡饅等)焼餅(シャオビン)等を売る店が並んでいます。豆腐屋さんもここです。因みに、北京の豆腐屋さん(販売)は、あまり水を必要としません。お豆腐は、バット等に大きいまま置かれて、客の要求に応じて切り分けて、目方を量って売っています。以前、テレビの中国紹介で、豆腐を荒縄で縛って持ち歩いているのに眼を見張りましたが、ここで売っているのも、荒縄は無理かもしれませんが、ビニール袋に入れて貰って持ち帰れば、まな板の上まで同じ形で運べます。それほどしっかりしたお豆腐で、日本の木綿豆腐とは全く違う硬さです。日本の絹漉のような豆腐もあるにはありますが、ボロニアソーセージのようにケーシングされて、「日本豆腐(リイベンドウフ)」と呼ばれています。レストランのメニューでも「日本豆腐」の涼拌菜や炒め物が人気を博しています。

豆腐屋さんには、これら豆腐の他に、豆腐乾と呼ばれる、一見「押し豆腐の燻製」のように見えるものを売っています。形状も、厚さも、色も様々で、人々は煮たり、炒めたり、そのまま食べたりします。酒のつまみに最適だそうです。初めて見たとき、豆腐の燻製かと思いましたが、実際は、豆腐に味をつけて蒸し上げた物なのだそうです。保存性もよく、北京の人々のお気に入り食品です。

中央の楕円の台は、殆ど全部八百屋さんです。台の上に高く積まれた野菜は圧巻です。いろいろな種類が並んでいて見飽きません。この量を見ると、「中国はやっぱり食の国」と改めて感じてしまいます。東京では余り見かけない1m近くなるインゲンや、加茂茄子よりも大きな丸い茄子があり、直径2p程で長く育ったヘチマも食用に売っています。きのこも種類がたくさんあるのですが、名前を聴くと、どれも皆「モウグウ(?磨j」との答えが返ってきます。日本のように椎茸だ、シメジだと区別しないようです。きのこの名前が無いのかと思いましたが、辞書にはちゃんと載っているので、八百屋さんが名前で区別しないだけだとわかりました。北京の八百屋さんでは、生椎茸でさえ「モウグウ」で済ませています。

客は、自分の好きなものを好きなだけ平笊に乗せて売り子に渡します。売り子は秤で計って、1毛(角)とか3毛とか値段を告げます。キュウリの隣に美味しそうなきのこがあるのでそれを笊に乗せると、それは隣の店の品物だったりします。それぞれのお店は、品揃えの一部に独自性を出し、競い合っていますが、同時に協力もしています。

日本の青果市場に行ったことはありませんが、時折テレビなどで見る機会があります。品物が床に積まれて、競が行われているのを見ますが、集まった野菜は多い筈なのに、場所が広いせいか、それほど多いようには見えません。その点、中国の小売市場は、少ないスペースに野菜がうず高く積まれて、そんな筈は無いのに、日本の卸売市場より品物が多いようにさえ見えます。この市場とは別に、もう少し規模の大きな野外の市場でも、八百屋さんの部分では野菜類が山積みされて売られていて、北京の胃袋の大きさを実感します。

時折北京の郊外へ出かけることがあって、果樹園や耕作地を眼にすることがあるのですが、時期が悪かったためでしょうか、畑が作物で溢れるというような光景には出くわしたことがありません。それどころか、畑地は粘土質で、コチコチに固まっていて、日本の畑と比べて、これで耕作が出来るのかと思ってしまいます。でも、市場に溢れる野菜を見ると、ここでも時期が来れば緑に覆われるのでしょう。それに、何と言っても、北京には、南方の穀倉地帯が控えているのですから。

ところが、最近の北京では、山積みにした中から好きな野菜を選ぶよりも、パック詰めにしたスーパーマーケットの野菜を買うのがトレンドになって来ました。フランス系のスーパーマーケット、カルフールが、北京では“家楽福(ジアルフ)”と呼ばれて、大繁盛しています。そこでは、果物などは山積みして量り売りをしていますが、野菜の多くはパックされていて、品質も決して良いとは言えません。それでも、人々は喜んで買って行きます。私は、そんな人々の生活を、ちょっと残念な思いで見ています。

商売としての八百屋さんは、手っ取り早く始められるものの一つのようで、ある日、突然、街中の道路わきに野菜を並べて商売が始まります。場所が便利で、品物が良いと、繁盛して固定客がつくようになり、そして少しずつ大きくなります。市場やスーパーが繁盛しても、街の小さな八百屋さんにもそれなりの存在感があって、頑張っているのです。

 

 

 

inserted by FC2 system