北京雑感ー29

              改装工事

 

昨年、北京オリンピックは、一応無事に終わりました。開幕式の演出に関しては、親中国、反中国、それぞれの立場から様々な感想が語られましたが、競技自体は問題なく執り行われました。我々としてはあれこれ言いたくなるような事柄も、中国の人々にとっては、世界的な映画監督、張芸莫氏が演出した壮大で華麗なスペクタクルショーと言う位置づけで、誇り高い中国人を十分に満足させるものだったようです。

 オリンピックスタジアム「鳥の巣」や水泳競技場「水立法」の周りの写真を見せていただきましたが、昨年10月には、建造物は未完成で、地面は掘り返され、鉄板をめぐらせた中にクレーン車が見えるだけだったのに、今はもう、「ずっと昔からこんな風景だった」という雰囲気で写っていました。

 マラソンの実況中継で、前門付近がどう変わったか見たいと思いましたが、テレビでは見られませんでした。然しながら、昨年、私が帰国する前の前門は、建物をすっかり取り壊し、地面を掘り返して、新しい造成地のようでした。あの様子から想像して、前門には全く新しい町並みが出来上がっていることでしょう。オリンピック競技場のように、目を見張るような変化を遂げて……。

 新しくなった北京は、広々とした敷地を石畳やレンガで覆い、芝生を植えて、清潔な町並みが連なるようになりました。以前は、ちょっと裏道に入ると舗装されていないので、雨でぬかるみ、風で砂埃を巻上げていましたが、今では、春先の黄砂に北京市街地の砂埃が加わることはなくなったようです。

 一昔まえの北京は、一年中、砂埃がとても酷かったと思います。ちょっと風の強い日には、室内に砂埃が入ってきて、掃除が大変でした。これは、未舗装の道路や空地のせいばかりでなく、窓の密封性も悪かったためだと考えられます。私は、この北京の砂埃に関連して、ちょっと面白い経験をしました。

そもそも私の北京生活は、友人のお父様がお亡くなりになって、お母様が独り暮らしになったので、暫く一緒に住んで欲しいと言われたことから始まりました。葬儀の後暫くして、日本で生活している子供たちのところで過ごした友人のお母様は、滞在期間が切れるし、やはり北京で暮らしたいからと北京へ帰ることにしました。独り暮らしになるお母様を心配して、子供である友人が、「暫く母と一緒に住んで、北京の生活を楽しみませんか」と誘ってくださったので、好奇心が旺盛で身軽な有為楠は、二つ返事で引き受けました。

2000年の4月にそのお母様と一緒に北京へ出かけました。彼女の家は8ヶ月程空家になっていたので、家に着くとすぐに掃除をしなければなりませんでした。家の中は、床やテーブル、棚などにうっすらと土埃が溜まっているのです。ちょっと古いけれど、しっかりした鉄筋の集合住宅で、窓ガラスは二重になっているし、一見したところ、どこもきちんと閉まっているのですが、溜まった埃の量はかなりなものでした。日本では、10年留守にしても室内にこんなに土埃が溜まるとは考えられません。床がたたきの工場が5.6年使わなかったら、この位埃が溜まるだろうかと言う程の量でした。時期的に、黄砂が吹き荒れた後だったせいかもしれませんが、埃の量には、本当にびっくりしました。しかし、北京の人たちにとっては、特別驚く量ではなかったのです。

暫くして、彼女は家中の窓枠を交換しました。古いものは、鉄枠で観音開きの窓でしたが、新しいのは、白い強化プラスチック枠の引き戸にしました。ガラスは、古い窓もそうでしたが、ガラスを二枚嵌めた寒冷地仕様です。古い窓枠はくすんだ色だったので、この白い窓枠は非常に目立ちますが、気をつけてみると、同じような窓枠を取付けた家が多いことに気がつきました。窓枠の交換はちょっとしたブームのようで、一棟30戸の建物で、平均10戸以上がこの白い窓枠に替えていました。これで機密性はかなり良くなって、砂埃はかなり少なくなりました。

次に彼女がしたことは、木地板、つまり板敷きの床にすることでした。改造前はコンクリートのままで、居間だけにリノリュームタイルを貼っていましたが、今度は、寝室と居間を板敷きにし、食堂と台所にはタイルを貼りました。コンクリートの床に直接板を並べて貼っていくので、目が点になる思いで工事を眺めていました。それでも、工事が完成してみると、見違えるように快適な部屋が出来上がりました。

この床の張替え工事も流行のようで、階段の両側にある10戸の中で、続々と工事が続き、その時の、2年足らずの滞在の間に、8戸が工事を済ませました。床の張り替えは大きな音がするのですが、朝7時頃から始まることがあります。大きな音はお互い様と言うのでしょう、どこからも苦情は出ないようでしたが、9時頃からが常識の人間には、文句を言いたくなるような時間でした。

もう8年も前のことですが、北京の建設ラッシュのミニチュアを見るようでした。

inserted by FC2 system