北京雑感ー28

          月 餅

 

  今年の中秋節は、914日でした。中秋の明月と言うと、9月末を連想しますが、農暦ですから毎年、随分前後します。最近では、2000年と2003年が同じように9月10日前後でしたが、2006年は106日、2007年は925日でしたから、今年は随分早く感じます。中秋節が10月に入ってからの2006年でさえ、8月末にはちらほらと月餅の特設売り場が設けられ、乙に澄ましたホテルの入り口でも、赤い布を被せたテーブルの上に、贈答用月餅の箱を並べて売っていました。暫くすると、月餅の箱を入れた、派手な紙袋を両手に5,6個ずつ持って、あたふたと車に乗り込む営業担当者らしい人達を見かけるようになります。今年の北京は、オリンピックと月餅販売が重なって、ことのほか賑やかだったのではないかと想像しています。

 中国の人々は、中秋節と月餅に特別の思い入れがあるようです。会社関係の贈答は儀礼的な意味合いが大きいようですが、一般の人々は、お世話になった先輩や、両親、親戚、先生等に心を込めて贈ります。その月餅は、綺麗な箱に麗々しく詰められ、値段もかなり立派です。贈答用月餅には、殆ど100元以上の値段が付いています。有名なホテルやレストランのものですと、500元とか600元と言うものも少なくありません。

 贈答用月餅は、外側の飾りと中身の内容と製造元のネームバリューで値段が決まります。パッケージは主な販売戦略の一つで、種々工夫が凝らされます。一度私が頂いたものは、ある有名なレストランのものでしたが、赤い厚紙のケースがあって、それを外すと金と赤でお目出度い絵を描いた木製の箱が出てきます。箱の蓋を開けると、黄色い絹の布が張ってあって、布に包まれるように、文字をデザインした模様で、凝った形の紙箱が6個並んでいました。その箱を開けると、ビニール袋に入った月餅が、プラスチックの皿状ケースに乗って出てきました。

4,5年前から、月餅の過剰包装が問題視されるようになり、政府が簡素化を呼び掛けていますが、なかなか改まりません。つまり、省エネの意識よりも購買力の伸びの方が勝っているのです。私が経験している5,6年の間でも、年々包装がエスカレートし、価格も上昇しているように見えます。

月餅のお味はとてもリッチで、皆で切り分けて頂くと、中秋節本来の「一族の団欒を楽しむ」趣もしっかりと伝わってきます。餡の中身は、小豆の餡にくるみや蓮の実を練りこんだり、胡麻や棗の餡、チョコレートの餡と千差万別です。中には、朝鮮人参やレイシを練りこんで薬効を謳ったものもあります。中国の方が好きなのは、卵黄の塩漬けを入れたもので、切ると餡の中に月が見えて、なかなか良いものですが、味は特別美味しいとは思えません。味の点で、私が好きなのは、「五香」とか「百果」とか言って、木の実がたくさん入っているものです。これは中国の方々も好きで、バラ売りでは真っ先に売り切れます。

 北京で暮らして、楽しかったのは、市場では食品の殆どが計り売りで、しかも日本と比べると驚くほど安いことでした。お饅頭や最中のような形態のお菓子に、1.2元とか、0.8元とか値札がついているので、1個がその値段かと思い、「5個ください」と言うと、計って「1.8元です」とか「3,2元です」とか言われて、驚くことが間々有りました。値段は1斤、つまり500gのものだったのです。平均所得が違う日本と比べても意味はありませんが、円に換算すると、ビックリするような値段で、つい嬉しくなってしまったものでした。

 ところが、月餅の場合は違います。派手な包装費用は別にして、月餅自体もかなり高価です。中秋節が近くなると、お菓子屋さんやスーパーで、家庭用にバラの月餅を売り出します。その値段は、6.8元とか4.8元とか付いているので、他のお菓子と同じように、1斤の値段かと思いますが、実際は、月餅に限り1個の値段なのです。他のお菓子と比べると随分高いと思いますが、北京の人々は気にしていません。

尤も、この時期、スーパーでは、直径3センチ位の小さな月餅も売っていて、これは計り売りです。餡の種類で値段も違います。凝ったのは有りませんが、小豆餡、棗の餡、梨やパイナップル入りの餡、木の実の餡などがあり、ここでも、「百果」が一番先に売り切れます。「百果」と言っても、メーカーによって味が微妙に違うので、味見をしてから買おうと、食べ比べて美味しかったものを4,5日後に買いに行ったら、「百果」だけが売り切れと言うことを何回も経験しました。

 月餅は、「どんどん作ってどんどん売る」と言うものではなく、中秋節前に一定量作って出荷したら、それ以後は作らないようです。あちこちで売られていた月餅が、全部のお店で完売と言うことは考え難いのですが、私が出歩く地域では、中秋節後に月餅を買うことは出来ませんでした。本当に売り切れてしまうのか、戦略的に市場から引き上げるのか、どこか他では売っているのか、これからの研究課題です。

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