北京雑感ー26      北京の病院事情    

 

 四川大地震は、未曽有の地震災害といわれ、特に小中学生の犠牲者が多いのは痛ましいことです。さらに多くの人々が負傷して、医療支援を待っている様子がテレビでも報道されました。中国全土から医師や看護士が集結し、日本からも医療チームが救急援助に出かけて行きました。

 そんな中で、中国の都市における医療事情がテレビで取り上げられ、中国の医療制度の問題点を解説していました。地方からより良い医療を求めて大都会へやって来る人達が金銭的にも、労力的にも大変な思いをしているようです。地方の方々の苦労とは比べものにならないでしょうが、北京の老百姓(一般市民)の病院事情をちょっとご紹介してみます。

 ある時、知人の具合が急に悪くなったことがありました。午前中、スーパーマーケット家楽福(カルフール)へ買い物に出かけて、お昼寝をした後、起きようとしたら眩暈が酷くて立てなくなってしまったのでした。急遽大学構内にある病院に行きました。午後のことで、急患扱いですぐ診察を受けることができました。検査しても原因は分からず、とりあえず点滴をして様子を見ることにしました。

 院内の薬局で点滴薬を買って来て、それを看護士さんに渡します。点滴の部屋は、安楽椅子が並んでいて、大勢の人が椅子に座って点滴を受けていました。知人は、立つと眩暈がするというので、ストレッチャーと言うのでしょうか、車輪付のベッドで部屋に入って処置を受けました。部屋はあまり広くないので、途端に狭苦しく感じるようになりましたが、それぞれおしゃべりを楽しんでいて、日本の病院にはないような雰囲気でした。知人は、点滴を受けても眩暈が治らなかったので、そのまま入院しました。

 知人は、各種検査を受けたのですが、検査結果には異常が見られないのに症状は改善せず、それでも一応点滴は続けていました。ある日の午後、ちっとも良くならないので業を煮やして、大学病院に病室を確保したまま、地域の中心的病院へ診てもらいに出かけました。中国では、過去に受けた検査結果や写真フィルムなど、皆個人が持っていて、違う病院へ行く時には一式持って行きます。

 今回も急患として受付の窓口に行ったので、すぐ受け付けてもらえましたが、混んでいて、1時間近く待たされました。入り口で車椅子を借りようと思ったのですが、全部出払っていて、これを使っても良いと言われたのが車輪付のベッドでした。使用料は無料ですが、保証金として200元払わされました。勿論返却すれば全額戻って来ますが、車椅子ならともかく、ベッドなど持って行き様が無いと思いましたが、決まりだからと言われました。医師が、問診と検査資料を見ながらCTを撮ってみたらと言うので、また会計課の窓口で費用を支払い、領収書を持ってCTを撮りに行きました。費用は大体300元位だったと思います。

 CTの結果はすぐ医師の所へ回って、その結果を見ながら、「特に眩暈を引き起こすような異常は見つからない。もう少し様子を見るように」と言われたので、そのまま大学病院の病室に帰りました。私は、日本の医療に関する知識が乏しいのですが、常識的に考えて、日本ではこのようなことは有り得ないと思います。中国でも特殊なケースかも知れませんが、可能だと言うだけでも驚きです。

 今回は2度とも急患として受診したので並びませんでしたが、普通に見て頂く時は、朝早く申し込みの順番を取るために並びます。病院の診察開始は9時からですが、受付は8時か8時半に始まります。その順番を取るために、6時前から並びます。受付窓口の近くには、診察を担当する医師の名前と顔写真、肩書きと一緒に診察料が明記されています。著名な先生は60元、教授は40元、助教授は20元、講師は10元、一般医局員は5元といった具合に値段が付いていて、診察を申し込む時、「何元の誰先生」と言って申し込みます。人気のある先生に申し込む時は、行列の前のほうにいても、その時までにその日の診察人数に達してしまい、受け付けて貰えないときもあります。

 首尾よく受け付けて貰えて待合室で待っていると、やがて診察開始時間が近くなって、看護士さんが案内を始めた時、友人の付き添いで行った私はビックリしました。案内は、「何元の○○先生(受診希望者)はこちら」、「何元の△△先生はこちら」と、先生の名前の前に、必ず金額を付けるのです。経験に応じて診察料が異なるのは合理的ですが、案内にまで金額を言われると、慣れていない私には、とても奇異に感じました。

 私が、見学した病院は5箇所ほど(殆どが、大規模で近代的な病院)でしたが、どこでも診察器具はみな最新式のものを使っていました。しかし、診察室の配置とか、患者さんの流れとかには、まだまだ改善の余地があるようです。1箇所だけ、北京大学付属病院歯科診療室は、ゆったりとして機能的でした。外国人用とは言え、患者さんの殆どは中国人でした。テレビで紹介していた、高級志向の病院はこんなのでしょうが、老百姓には縁の無い病院です。

 

 

 

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