北京雑感ー24   中関村交差点

 

 私が北京に滞在するようになったのは2000年からですが、その少し前頃から、中国の急速な経済発展が始まったようで、北京市内の、私が見聞するごく限られた地域でさえも急速な変化が現れました。私の生活の拠点は、清華大学と紫竹院でしたから、中関村大街を南北によくバスで往復しました。初めの頃は、自家用車も今ほど多くはなかったのですが、中関村交差点の辺りはいつも渋滞していました。ある時、停まっているバスの窓から外を見て、交差している道が随分深く掘り下げられているのを発見しました。

 聞いてみると、それが四環状線になる道でした。中国の工事現場は不思議なことに、何時通っても、建設重機がバリバリ動いているとか、人海戦術で作業をしていると言った場面に出会ったことがありませんでした。尤も、私は毎日見ている訳でもないし、現場に近寄って見た訳でもないので、定かには言えませんが、少なくともバスの車窓から見る限り、「せっせと作業をしている」と言うよりいは、「工事が中断している」と言う印象でした。ところがある日、北上するバスに乗っていると、交差点で直進するところを右、即ち東へ曲がりました。大分走ってから、工事をしていた道路を横切って、西に向かって走り、中関村大街に戻りました。つまり交差点での工事のため迂回した訳です。南下する時は、西へ曲がり、同じように迂回します。四環状線の工事が交差点に差し掛かったのです。しかし、バスから見える周りの様子は以前と余り変わりません。

 日本の場合は、工事現場は囲いがしてあって見えない時でも、ダンプがしきりに出入して、出入り口では誘導員が交通整理をしたり、道に落ちた土砂を掃除したりして、作業が進行中ということが良く分かります。しかし北京では、少なくともこの道路工事では、そんな雰囲気は全く感じられませんでした。この違いはどこから来るのだろうと考えているうちに、一つ思い当たりました。

 かなり前から、北京市への大型車両の乗り入れは制限されています。大型の運搬車両・工事車両等は、時間を限って、夜から明け方迄しか市内の走行を許されません。そのせいで、土木工事や基礎建築工事は夜分に実施しているのでしょう。確かに、北京市内では、日中走っているダンプカーを殆ど見ません。きっと、ダンプが出入りするような工事は夜間に集中して行っているのでしょう。

 中関村大街のバスルートは、4ヶ月程で元に戻り、直進出来るようになりました。つまり、四環状線との交差部分が完成したのです。それから1ヶ月で、私は日本に帰って来ました。

 半年後に再び北京へ行くと、中関村大街付近の工事は終わっていました。交差点では、東西の道、つまり新しい四環状線が中関村大街の下を通って、車がビュンビュン走っていました。交差点で交差する車がなくなったので、交通渋滞も無くなったかと思ったら、案に相違して相変わらずの渋滞です。道路の整備が、車の増加に追いついていないのです。しかも、ここは以前から、信号機の設定が悪くて、人も車もうまく渡れませんでしたが、車の交差が無くなった現在でも、人間と車が入り乱れて渋滞を引き起こしています。

 中国では歩行者優先の意識が無いのに、右折車は、前方の信号が赤でも右折できます。因みに、中国は右側通行ですから、日本の左折の場合と同じと考えてください。車の前方信号が赤と言うことは、横断歩道の信号は青。歩行者に渡る権利があるはずですが、車は歩行者を蹴散らすように突っ込んできて右折して行きます。日本のように横断歩道の歩行者を待ってはくれません。青でも渡れない時が間々あります。それで歩行者は前方信号が赤でも、車が途切れれば渡ります。私は、初めてこのような歩行者を見た時、何とお行儀の悪い歩行者だろうと思いましたが、自分も歩行者の一人として歩いてみて、歩行者のこのような態度は、ドライバーの優越感と信号機の不備が原因で起こる、当然の帰結だと分かりました。

 現在、市中心部の交差点は、青の矢印を採用して、車の「前方が赤の時は停車、矢印が出たら右折可」が大分浸透してきました。しかし、中心から離れた、ここ中関村交差点の辺りは、従来の信号機で、しかも、中心部に比べて、人も車も極めて多いので、慢性的な渋滞が発生します。おまけに、新しい地下鉄の工事で、この交差点の少し南、海淀黄庄の道幅が狭くなっていて(それでも3車線は確保されているのですが)、渋滞は今まで以上でした。

 今年は、この辺りの信号機も市中心部と同様に改善されて、渋滞が解消されているでしょうか。地下鉄工事が完成すれば、道路も元に戻り、中関村交差点の渋滞は昔話になっているかも知れません。でも、本当のことを言うと、運転者全体に対する歩行者優先の意識改革と、バス・タクシー等職業運転者に対するマナー教育が徹底されないと、北京の渋滞解消は無いと、私は密かに思っています。

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