北京雑感ー21    北京人のお行儀 T
                            
                 
バスに乗ると    
                                

 北京オリンピック開催に当っての、北京政府の心配事の一つが、北京の人々のお行儀だと言われています。

 確かに、北京の人々のお行儀は、全般的に、あまり良いとは言えません。よく見られるのは、バスに乗る時、並ばずに我先に乗り込む光景です。

 国慶節に、前門から清華大学までバスで行く時、やっと見つけたバス停で、かなり混んだバスが出発するところだったので、次のバスにしようと、一番前に並んだ積りでしたが、時間が経つにつれて周りに人が集まって、行列ではなく、人の塊ができました。暫くすると、待っていた路線のバスが来て、乗客を降ろしました。前門が始発なので、乗って来た人々は皆降りました。そのまま乗り場に来るのかと思ったのに、10メートル程手前で停まって時間調整をしています。

北京のバス停には時刻表がありません。同じ路線のバスが3,4台続けて来たかと思うと、20分程も間があくこともあります。前に混んだバスがいて、乗り降りに時間がかかっていると、後から来たバスが前のバスを追い越して行きます。そんなバスが、目の前で時間調整らしきことしているので、周りの人達もかなりイライラして、いつになったらここへ来るのだろうと待ち構えていました。そのうちに、4,5人のグループがそのバスのところへ行って、運転手に二言三言話すと、バスに乗り込んでしまいました。それを見ていた人達が後に続こうとすると、運転手はここでは乗れないと言ったようですが、皆、無視して乗り始めました。すると運転手はバスのドアを閉めてしまいました。

4,5分後、そのバスは、首尾よく先に乗った人達を乗せたままバス停にやって来ました。すると、人の塊がバスの乗り口に殺到し、押し合いへし合いして、なかなか乗れません。並んだ方がずっとスムーズに乗れると思うのですが、誰も譲ろうとしないので、時間ばかりかかります。私はと言えば、乗り場の前の方にいた筈なのに、人の塊の後ろでウロウロしていました。バスには既に多くの人が乗っていて、もう少しで満員になりそうです。私は前のバスが出発した時から待っていたのだから、これに乗れなくては大変と思い、人ごみの中に体をいれ、一緒に押し合いへし合いすると、どうにかバスのステップまでたどり着き、やっとの思いで乗り込むことが出来ました。私の後、10人位乗ったところで、どうにも乗れなくなり、まだ乗ろうとする人が大勢いましたが、運転手さんがやっとドアを閉めて、出発しました。

バスの中は、ラッシュアワーの電車のようで、身動きが出来ません。北京のバスは、掴まるところが少なくて困るのですが、人が多くて倒れる心配が無いだけ楽でした。人の間であっちに揺られ、こっちに振られしていると車掌さんの近くまで押されて行きました。車掌さんが近くのポールに掴まらせてくれて、「ここに掴まっていて。この人達は西単商場で降りるから、その後ここに座ればいいから。」と言ってくれました。すると、「この人達」と言われた中の若者が一人、席を譲ってくれました。「せっかく座ったのに申し訳ない。あなた方が降りた後で座らせて貰うから…。」と辞退したのですが、「没事。別客気。」と引っ張ってくれるので、有難く座らせて頂きました。

西単商場は、通常、長安街の西単バス停の次で、時間にして4,5分ですが、国慶節のこの日は、西単には停まらず、出発したら次が西単商場でした。しかし、この日は天安門広場周辺が交通規制され、車も多いので、交通渋滞が発生して、バスは遅々として進まず、たった一区間を走るのに40分もかかってしまいました。その間、私は、席を譲ってくださった若者に対して、本当に申し訳ない気持ちで座っていました。

北京でバスに乗ると、8割方、席を譲って貰えます。老人が乗ってくると、若者がサッと席を立って、何気ない様子で席を譲ります。偶に、すぐ譲られることが無い時でも、車掌さんが席を譲るよう声をかけると、すぐ応じてくれます。空いているバスで、若者にも車掌さんにも気がつかれずに立っていることは、殆ど皆無と言って良いと思います。ある時などは、運転手さんの後ろに良い場所を見つけて、景色も良く見えるので、立っていようと思ったのですが、運転手さんが大声で、後の車掌さんに“席を空けてやって”と指示して、座らされてしまいました。

北京のバスは、新しく導入されたバスは別にして、全体に吊革が高く、掴まるところが少なくて、老人には不便です。しかも、運転が荒くて、急ブレーキ、急発進が多いので、しっかり掴まっていても、老人はバスの中で走ったり転んだりしかねません。確かに、老人には座っていて貰う方が安全でしょう。老人に席を譲ることは、安全のために必要で始めた事かも知れませんが、席を譲る若者のマナーはスマートで、これが、乗るときに押し合いへし合いする同じ中国人かと思ってしまいます。

先日、東京で電車に乗ったら、優先席に若者が3人だらしなく座って、携帯を見せ合ったり、スナック菓子を食べたりして、傍に杖をついた老人がいても知らん顔を決め込んでいました。何だか北京のバスが無性に懐かしくなりました。

 

 

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