黄砂の時は、話に聞くだけで、実際に完全に見えなくなるのを経験したことはないのですが、夏の朝の霧はしばしば経験しました。
朝起きてみると、窓の外は真っ白で、隣の建物が辛うじてみえるだけ、200メートル程先の建物は殆ど見えません。テレビ塔はありません。いつも見えているあたりに、テレビ塔があるはずだと思って目を凝らしても、全く見えません。
それほど濃い霧がかなり頻繁に発生します。この霧は、丁度、日本が梅雨の頃によく発生しますが、2006年は特に多かったようです。

　この濃霧を、大抵は部屋にいて窓から眺めるだけなのですが、一度、外で体験しました。
清華大学にお勤めで退職した方々を対象にして、バスで北京の野生動物園へ行くツアーにご一緒させていただいた時のことでした。
朝出発の時は、ちょっと曇っているかなというお天気でしたが、走っているうちにだんだん霧が出てきて、北京南郊の野生動物園につくころには、視界が1メートルにも満たないような濃霧になりました。
バスは、這うようにして動物園の駐車場にたどり着きました。初めに動物のショーを見せてもらえるというので、野外舞台の前の座席に着いたのですが、舞台中央のパフォーマンスがやっと見えるだけ、舞台の後ろに控えた動物はおろか、前面のパフォーマンスも端の方は、霧のヴェールの向こうにかすんでいました。
さすがにこんな深い霧は、北京でも珍しいようでした。

　朝起きて、窓の外に霧を見る度に、これは本当の霧だろうかと考えてしまいます。
どうも、本物の霧が、大気汚染に触発されて濃霧になるのではないかと、知り合いの中国の方は言います。
いずれにしても、空気中に水分があるので、陽が出ると蒸し暑くなります。

　3,4年前までは、北京の夏は快適でした。
日差しは、東京あたりと比べで、ずっと強いようですが、空気が乾燥しているので、日陰に入ると汗がすっと引いて、気持ちが良かったものです。
それが最近は、日本と変わらないくらい蒸し暑くなってしまいました。

　北京の気候は、6年程前に、私が北京へ行きだしてからでも随分変わりました。
初めの頃は、5月の末になると、夏の日差しが照りつけて、その強さにビックリしました。日本ではまだ梅雨も始まらない頃に、真夏のような毎日で、汗が噴出してくるのですが、蒸し暑くないので、さっぱりと気持ちのいい汗でした。
その頃の私は、北京の夏の気候を聞かれるたびに、“暑いことは暑いですが、空気が乾燥しているのでしのぎ易くて、私は好きです”と答えていました。
そして、北京の夏は、雨が少ないという印象でした。本当はそれなりに降っているのですが、日中には降らないで、夕方、土砂降りの雨が小一時間降って、あとはけろっと上がってしまいます。
一度、出かけている時にこの夕立にあって、その雨脚の強さに圧倒されました。
“バケツをひっくり返したような”という形容がありますが、まさにそれ、或はそれ以上の勢いでした。
雨宿りをしながら、どうなることかと見ていたのですが、暫くすると降り方がおとなしくなって、そのうちにふっとやんでしまいました。
あとは涼しくなって、さっきまでの暑さはすっかり収まってしまいました。

　それが、2,3年前からちょっと様子が変わってきました。
先ず、雨が日中長い時間降ることが多くなって来ました。その頃、中国では人工降雨の技術が開発されたという噂を聞きました。そんな噂を“本当かも”と思わせるように、雨が多くなりました。
ある時など、朝から雨がしとしとと降ってきて、日本の梅雨時を思い出してしまいました。私にとっては初めての感覚でした。

　そして去年、2006年は、更に雨が多くなりました。
今年の中国は、南の方で台風の被害が酷かったようですが、南に台風が接近すると、北京に雨が降るようで、その分蒸し暑くなりました。北京は空気が乾燥していると思っていたのに、あの乾燥はどこへ行ってしまったのでしょう。
北京もやっぱり雨が降れば蒸し暑いのだと改めて感じました。勿論、以前と同じように夕方から強い雷雨があることもあります。
そんな時は、あちこちの道路が冠水して、交通渋滞が起きます。
以前は、どんなに激しい雨が降っても、道路が冠水するのは、あまり目にしませんでした。地域の違いもあるのでしょうが、あれから何年もたって、インフラ整備も進んでいるはずなのに、見掛けほど内容は整備されていないのかしら、などと意地悪く思ってしまいます。

2005年に、“今年の夏は少し変だぞ”と思ったのですが、2006年には、今までとすっかり変わってしまいました。
2007年の夏はどうでしょうか。
出来ることなら、昔の“快適な夏”に戻ってきて欲しいと思います