北京雑感―11 北京の公園で 

 

 北京の公園は、市内のあちこちに、規模の大きなものが散らばっていて、市民は有効に利用しています。
特に
60歳以上の老人は、年間70元ほど払うと、好きな公園を10箇所選んで、自由に入園出来るパスが貰えます。
和園とか香山公園も選ぶことが出来、和園などは、入園料が高いので、このパスは、非常な割安感を得ることが出来ます。
北京の退職した老人達は、家の近くの公園へ毎朝行って、散歩をしたり、京劇やダンス、コーラス等自分の好きな活動に参加したりして、楽しく生活をしています。

 近くの、紫竹院公園は、以前の有料の時でも、朝7時前に入園すれば無料でしたが、現在は何時でも無料なので、夜も、仕事を終えた人たちが加わって、散歩とサークル活動で更に賑わいます。

  日本と違って、所謂公民館のような施設が少なくて、種々の活動を、公園や、街角のちょっとした広場等野外で実施するので、目に付き易いせいか、老人の活動が随分活発だとの印象を受けます。
公園以外でも、入場料を必要とするところでは、どこも老人割引があって、身分証を見せれば半額で入場することが出来るのです。

70歳前後の人々は、何十年と、同じ職場で働き続け、退職した人たちが殆どですから、以前の職場との結びつきは、日本では想像も出来ないくらい強いものがあります。
退職後、何十年経っても、昔の職場が、年二回程慰労集会のようなものを催して、豪華商品の当る福引を行ったり、日本の盆暮れに当る時期には、油や日常の食品を届けたりして、
OBの面倒を見ています。給与は、退職時の給与に比例して、一定割合の額が毎月、銀行口座に振り込まれます。
この金額は、決して多くはありませんが、物価が安いので、贅沢をしなければ、まずまず暮らしていける額です。
私などは、個人的にみて、とても羨ましく感じていますが、これも、昔の職場が存続し、それなりの利益を上げている場合に限られるようです。

 中国の経済発展が進む中で、昔の国営企業が破綻したり、民間に移行して、経営母体が変わったりすると、様子が違ってきます。
退職者給与は出るにしても、年
2回のボーナスに当る現物支給は、全く無かったり、あってもほんの僅かだったりと、現在の職場の収益力が大きく係わってきます。
これなどは、本人の意思や努力に関係なく、時代の流れによって引き起こされたものですが、生活をする上では、格差となって現れます。

 今までは、職場がずっと存続し、そこに働く人も退職するまで同じと言う状況だったので、以前の職場による慰労会や生活用品の支給などが行われていましたが、これからは、職場の消長が激しく、働く人もあちこちに移動する世の中になって、今までのような制度は維持できなくなるでしょう。
現在の労働環境で、退職後に、どのような福利厚生が実施されるのか知るチャンスはまだありませんが、今までとは随分違ったシステムになるのではないでしょうか。

退職者だけではなく、現役で働く人たちの間でも、格差が大きくなっています。
中国の経済は随分発展しているのにと、ちょっと不思議に思うのですが、失業者もかなりいるようです。それで、大学生が学校を卒業しても就職できないケースが多発しています。

先日、新聞に、北京大学の大学院を卒業した人が、餃子を売っているというニュースが出ていました。
専門が何かとか、詳しい状況は伝えていませんでしたが、仕事の選り好みをしたわけではないのに、就職先が見つからず、仕方が無いので餃子を売っているとのことでした。
これは、北京大学の修士が餃子を売っていると言う、極端な組み合わせで、ニュースになりましたけれど、大学を卒業して就職できない若者が大勢いるのは紛れもない事実です。
別の日には、専門学校の卒業を間近に控えた女子学生が、就職先は決まらないし、親の期待は大きいしで、悩んだ末に自殺したと言うニュースを伝えていました。
学生の就職難は、かなり深刻なようです。

 昔中国では、各地の優秀な学生が、中央に集められて、国費で勉強して、社会のエリートとして活躍しましたけれど、現在は、生活水準の向上に伴って、親の経済力で進学する子供が増え、受け入れる大学も増えたので、大学生も玉石混交、卒業生の数が増えても、就職先が少なくて、この様に深刻な事態を招いたのでしょう。

 どうしてこんな深刻な話になってしまったかと言うと、先日、昼食の後で、昼間の公園を歩いた時に、水辺や木陰のベンチに若い人が座っているのを見かけたせいなのです。
私は、サラリーマンが、仕事の合間に休んでいるのかと思ったのですが、中国の友人は、この人々は仕事が無いのでここにいるのだと教えてくれました。それで、新聞で見た時にはピンと来なかった失業問題が急に眼に見えて来たのです。
広々とした明るい公園と、失業者との取り合わせは意外でしたが、これも中国の現状の一側面なのだと納得しました。
これからは、中国の社会変化にも注目して行きましょう。

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