北京雑感―10 


        北京の公園ーU
  

 
 
紫竹院公園は、北京市海淀区にあります。
中関村南大街と西直門外大街が交差する白石橋の北西の角で、北隣りは国家図書館、道路を隔てた東隣は首都体育館、首都体育館の東に北京動物園という位置関係です。

 
 この紫竹院公園、6月までは、入園料2元でしたが、7月から無料になりました。
どうして無料になったのか、その目的は分かりませんが、お陰で、私は気軽に公園に行くようになりました。2元が惜しくて行かなかったわけでは、決してないのですが、不思議なことに、無料になってから、頻繁に出かけるようになりました。
公園の中の変化は、と言うと、所々に売店が新設されたり、野外にテーブルを置いて軽食が食べられるようになったりして、それに連れて、従来からの売店が出来たてのクッキーや饅頭を売り出したりと、商業活動が随分盛んになりました。
朝早くから散歩に来た人たちが買って、朝食として食べたり、家に持ち帰ったりするのを見かけるので、入園料を無料にした目的はこんなところにあるのかな、なんて勝手に想像してしまいました。

 紫竹院公園は、中国の公園の例に漏れず、真ん中に大きな池があって、東側の一角には蓮池があり、西側の一角は釣堀になっています。池には、中ノ島のように張り出した部分があり、その突端にはしゃれた茶店があります。
夏の昼下がりでも、その店の席に座ると、三方水に囲まれ、水面を渡る涼風が頬に心地よく、暫し酷暑を忘れてしまいます。池の辺には、大小の石を配して、水辺に座って水に触れることが出来るようになっています。
石組みが洒落ていて、見るだけでも楽しいのですが、そこに入り込んで座ったり、石を伝って歩いたり出来るのがいいところです。
日本なら、「危ないから入ってはいけません」なんて言う立て札が立って、立ち入り禁止にするようなところでも、自由に入れて、その代わり、公園管理者は、事故に責任を負いません、という中国式やり方で、自由に水と戯れることが出来るのです。

 一般に、中国の公園や庭園には石がふんだんに使われて、独特の雰囲気を醸し出しています。
北京市内で自然石の石段や、大きな岩山を見ると、これらの石はどこから来たのだろうと思い、労力の大変さに感心してしまいますが、最近、北京への石の供給地の一つを知ることが出来ました。
清朝西陵へバスで行ったとき、盧溝橋で高速道路を降りて一般道路を南西に走っていると、ガイドさんが、「この辺りは、昔から、北京市内へ石材を供給しています」と教えてくれました。道の両側に大規模な石屋さんが立ち並び、大きな岩や、面白い形の自然石、様々な石の彫刻などがあちこちに置かれていて、バスを降りて見学したら面白いだろうなぁと思いました。
あとで地図を調べると、そこは、北京原人の故郷、周口店に近いところでした。石屋さんの後方には、削られた岩山がはるかに連なっていました。自動車ですと、北京の中心から
1時間半ほどの行程ですが、昔は道路も未整備で、重い石を都に運ぶのは随分大変だったのだろうと想像しました。
因みにこの場所は、行政区画上は北京市房山区、北京市の南の端に位置しています。

 話を紫竹院公園に戻すと、公園では無料化に先立って、公園のあちこちに配置してあるベンチやゴミ箱を、青竹に模したものに変えていました。清掃にも力を入れていて、公園の中はとても清潔です。
無料化になった今、これらの費用はどこから支出されるのか、他人事ながら心配です。勿論、有料の時から、入場料収入でこれら諸費用をまかなうことは出来なかったようですが、全くゼロになってしまうのですから、どうする積りなのでしょうね。
中国の方の予想では、何か実験をしているのではないかというのですが、どんな実験でしょうか?前述したように、公園内で物品の販売をしたりする、公園の運営を民間業者に委託したのかも知れません。
今中国政府が力を入れている、行政の民営化の一環でしょう。どういう契約かは分かりませんが、少なくとも、民間への委託料によって公園の維持費用を賄って、行政の負担を軽くしようという試みでしょう。ひょっとしたら、清掃も含めて、維持管理全体を委託したのかもしれません。

 北京の人々は、この公園を、朝夕の散歩、ダンス、京劇、楽器や声楽の練習等に活用しています。
私も夏の間、朝
7時過ぎに散歩をしましたが、その頃には、社交ダンスのサークルが盛んに踊っていました。
二胡を練習している人もいます。暫くすると、京劇を歌いたい人が来て、二胡を引く人に伴奏をリクエストして、何曲か歌います。その間に同好の士が集まって来て、批評をしたり教えあったりして、時間が経つと、一人、二人と帰っていきます。
この人々は、サークルを作っているのではなく、個人個人でやって来ては、その時その時で相手を見つけて楽しみます。
北京の公園は、市民の社交場として、日本の公民館のような役目を果たしているのです。

 

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