北京雑感ー1 

北京の市場


 北京で生活して、一番嬉しかったことは、食料品が豊富で、安いことでした。

 市場に足を踏み入れると、うず高く積まれた野菜や果物が眼に飛び込んできます。積まれた野菜の後ろ側に売り手が並んでいて、よく見ると、各自1間ほどを自分の領分として、並べる種類も、葉物が多かったり、根菜類が主だったり、ナス、キュウリ、トマトなど生り物中心だったり、珍しい物を集めていたり、一般的なのを満遍なくそろえていたりと、様々な特色があるようでした。それでも、隣との境がないので、買うほうから見ると、唯唯、野菜がズラッと並んでいるという印象を受けます。

 その売り方は、客に平笊を渡して、好きなだけ入れたところを量りにかけて、目方で幾らと言います。単位はたいてい1斤(500g)で、葉物類だと0.4元位から、トマトが高い時で1.2元、茸類は0.8元位と、季節によって多少の上下はありますが、野菜類をたっぷり5種類くらい買っても、全部で10元になることはありませんでした。

 
 毎日の食材が安く揃えられるのはとてもありがたい事ですが、それにも増して嬉しいのは、
果物の種類が多く、美味しく、しかも出回る期間が長いことです。
スイカは5月から10月初めまで、桃は6月から10月末まで、値段もあまり変わらずに買うことが出来ます。スイカは1斤0.8元、桃は1.2元くらいでした。
桃などは、大きなのを5,6個選んでも、5元以下で買えます。5元といえば、1元15円で計算すると、日本円で75円です。給与水準が違うから、日本での価格と比較するのは無意味だとはよく言われることですが、給与水準の違いを考慮しても不思議に思えるほど安いと思います。

 
 山と積まれた中から、自分でよさそうなのを好きなだけ選んで買えるのは嬉しいことです。
山が大きいうちは、形のよい見た目の綺麗なものを選べますが、残り少なくなると、形の悪いものや少し痛んでいるものも出てきます。日本だったらとても店頭に出てこないようなものも、堂々と商品として売られています。中国では、大きさを揃えたり、形の悪いものを除いたりすることはなく、収穫したものをそのまま市場に出して売っているようです。このあたりに安さの秘密があるように感じました。

 
 こんな中国でも、最近は、スーパーマーケットで、野菜や果物をパックで売っているのを見かけるようになりました。まだ量は少ないし、高くて、品質もあまりよくないので、利用する人は少ないようですが、売り場は着実に広がってきていますせっかくとても良い市場があるのに、だんだん日本が歩んできた道をたどるようになるのかと思うと残念で仕方がありません。
少し先を歩く先輩として、パックで売るのは味気ないとのsuggestionをしたいと思います。それどころか、出来ることなら、日本も、中国の売り方に倣って欲しいところです。
農産物は、選んだり揃えたりしないで、収穫したものを全部市場に出せば、生産者にとっては手間が省け、消費者は、生産者の手間が省けた分安く買えるのではないかと思います。
「物事、そう単純ではない」との批判もあるでしょうが、この様な方向が合理的だと考えます。

 
 中国で嬉しいことは、食料品の安さと並んで、もう一つ、交通費が安いことです。
バスは1元。路線によっては、30分以上乗っていても1元と言うのもありますが最近増えているのが、空調つきのバスで、これはスタートが2元です。10停留所までは2元、其の後は、5停留所ごとに1元あがります。
大抵同じ路線を走る普通のバスがあるので、それよりはほんの少し空いています。
また、タクシーは、新車が多くなりましたが、料金は未だに初乗りが10元ですから、気軽に乗ることが出来ます。
「北京の交通事情は快適です」と言いたいところですが、時間帯によって、かなり激しい渋滞にはまってしまうことが間々有りますし、運転は乱暴だし、あまり快適とは言えない状況です。

 
 現在、市内のあちこちで、地下鉄工事をしているので、そのための渋滞もありますが、工事などないのに渋滞しているところもたくさんあります。渋滞の原因を探ってみると、運転者のマナーの悪さと、交通標識の不備があるように見えます。
バスに乗っていて、前後左右の車の運転振りを見ると、北京の運転手さん達は「譲る」と言うことを知らないような気がします。
バスが停留所に近づいて、歩道よりに斜線変更しようとウィンカーを出しても、並行して走っている車はバスを入れません。
停留所に来てから、バスは斜めに頭を突っ込んで停車するので、動けなくなってしまうバスや車が出てきます。或は合流地点で、一台ずつ交互に入ればうまく良くのに、譲り合いがないので、一方はなかなか入れず、我慢できなくなって割り込むと、危うく事故になるような状況で、とまってしまい、渋滞の元になったりします。

また、渋滞箇所や交差点近くでは、歩行者がどんどん押し寄せてきて、車が通れなくなり、渋滞に拍車がかかることがよくあります。
この様な状態をバスから見ていて、北京の歩行者はマナーが悪いと思っていたのですが、自分が歩行者となってみたら、隙を見て渡ってくる歩行者の気持ちが分かりました。


 北京では、まだ歩行者優先という考え方が浸透していません。
ガソリンスタンドから出てくる車があっても、日本なら歩道に歩行者がいれば、先に通すと思い、先に行こうとして、危うくぶつかりそうになった事が、2、3度ありました。また、信号も歩行者に対して、あまり親切ではないのです。
ところによっては、道幅が広いのに、歩行者の青信号は短くて、私は歩くのがかなり早いと自負しているのですが、それでも、青になったのを確認してわたり始めても、最後の5歩くらいを残して赤に変わってしまいます。もう少し歩くのが遅い方では、道の途中で渡れなくなってしまうでしょう。
加えて、右折の自動車は(北京は車が右側通行です)いつでも曲がれます。交差点の歩行者が、信号が青になるのを待って渡り始めても、車が歩行者を無視して、後から後から右折してくるのでなかなか渡れません。
そうこうするうちに信号がまた赤になってしまいます。歩行者としては、信号が赤でも、渡れる時に渡っておこうという心境になります。
北京では、運転者も歩行者も、度胸が必要と言うことでしょう。


 素人の表面的な観察を基に考えただけでも、北京の交通渋滞緩和策はいくつかあります。1)運転者に「歩行者優先」の意識をうえつける;
2)右折車に対する矢印信号を設置する(それ以外は右折禁止);
3)歩行者用青信号を長くする;4)信号無視を厳しく取り締まる等々、
今すぐにでも出来ることです。
北京の広くて立派な幹線道路を見ると、渋滞が発生すること自体不思議な気がします。
自動車の増加が激しくても、人と車のマナーが良くなり、交通ルール、標識が改善されれば、今よりもっともっと走りやすい北京になることでしょう。

 老人がバスに乗ってくると、座っている若者がすかさず堰を譲ってくれます。
時には、車掌さんが乗客に声をかけて、席を譲るよう促してくれます。
こんな思いやりを発揮できる北京人ですから、運転者、歩行者のマナー教育がいきわたれば、北京市の交通事情は、きっと良くなると期待しています。
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